とある声優の卵の裏垢

タイトルのまんま

驕っていた ~私が声優の卵になった経緯②~

その日から私の生活は、少しだけ、でも確かに変わった。

オーディションは数週間後に迫っているが養成所やワークショップに通っている暇はない。演技のやり方や始め方がまったく分からなかった私は、藁にもすがる思いでYouTubeを開いた。

「演技 やり方」「声優 オーディション」などで検索しては様々な人の動画を視聴し、人によって言っていることが異なるためそのたびに不安に駆られた。その中で現役ナレーター福原安祥氏が教えている「あんじょーメソッド」なるものを見つけた。

彼の動画は非常に見やすく分かりやすい上に、演技初心者が聞きたいことにピンポイントで答えてくれる、まさに痒い所に手が届く動画だった。

誰の動画を信じてオーディション対策をすればいいのか分からず動画選びに疲れていた私は、とりあえずは彼の動画だけを信じて対策をしようと思った。

彼の動画から学んだことは以下の通り。

①オーディションで何をするのか

②演技のテンションについて

③台本の読み方

④ナレーションのオーディション対策

⑤台本読みのオーディション対策

⑥オーディション想定質問

 

これからの情報はそれぞれおよそ7分程度の動画にまとまっており、演技経験皆無で付け焼き刃に頼るしかない私は、それらの動画にすべてを駆ける思いだった。

まずは一つ目の、「オーディションで何をするのか」からだ。

事務所の人からの説明では、当日行うことは「台本読み」「自己紹介」「面談」程度の記述しかなく、台本読みと言っても台本を事前に用意するのかそれともそちらが用意した台本をその場で読むのか分からなかった。今思えばメールで聞けばよかったのだが、当時すべてにおいてナーバスになっていた私は、それすらも聞くことができなかった。審査員である事務所の人が、敵に思えていた。

 

「声優 オーディション やること」などで調べると、大体は自分で台本を用意して読むオーディションが多いようだった。台本読みの他にも、事務所の人が言っていた通り自己紹介や自己アピール、質疑応答などがあるようだった。声優になりたいわけではない私は、台本読みよりもむしろ自己アピールに賭けようと思った。自己アピールで、得意かつ本命の歌を披露しよう。子供のころから歌が好きだったし、歌手になりたいという気持ちに蓋をして送っていた日々に別れを告げたい。このオーディションでこの子は歌がいける!と思ってもらえれば、もしかしたら声優ではなく歌手として採用してもらえるんじゃないかと思った。

 

オーディションで何をするのかある程度理解した私は、いよいよ特訓に入った。自己アピールで披露する歌と台本読み。歌は自信があったので我流で、台本読みは不安しかなかったので上記のあんじょーメソッドの言う通りに練習を行うことにした。

発声練習や滑舌練習は特にしなかった。オーディションまでの数週間でどうにかなると思っていなかったし、それらは付け焼き刃ではなく日常の訓練がモノを言うと何となく思っていたからだ。

 

練習をすると決めて一週間、自分で台本を読んでそれを録音してを繰り返すが、経験のない私にはどれが良くてどれが悪いのかもよく分からなかった。客観視もできなかったし、孤独な練習に嫌気が差していた。

 

そんな時、ふと同居している父親にオーディションの練習で悩んでいることを吐露した。聞き流されるかと思ったが、返ってきた言葉は「練習みてあげようか」だった。

その日から父との特訓が始まった。

 

つづく