上京
上京物語という曲を知っているだろうか?
おそらく若い人は知らない。
曲に関する説明はめんどいのではしょるが、タイトルの通り主人公が夢のために上京をするという歌だ。
この曲の歌詞はとても良くできていて、夢を見ることの切なさや東京の浪漫などがひしひしと感じられる。
そしてこの曲は夢を見て上京をする誰もに当てはまり、例にもれず私にも当てはまった。
何を隠そう私も、声優になるために上京をしたのだ。
私は歳をある程度とっているので、自分にも他人にも人生にも期待をするのが恐い。怖くて仕方がない。もしかしたら最も恐いことかもしれない。
なので今私は上京一日目ながら全くワクワクドキドキしていない。
東京に夢を抱いていない。
東京に浪漫を抱いていない。
確かにこれで大きな失望をすることはないだろう。
だが一度きりの上京、これで良いのか?とも思えてしまう。
10代で上京していたらワクワクドキドキしていただろう。
変に歳を取って上京の現実だとか、その裏に汚い大人がたくさんいることとか、知ってしまった。
まぁ私の心情の吐露はここまでにして、以下は日記。
今日は新幹線にて東京に来た。
私を見送る時、両親は寂しそうな顔をした。
20半ばでも両親にとっては子供なのだ。
日頃家計を切り詰めているくせに、父は私に一万円を持たせた。
帰ってくるときの新幹線代にしろとのことだった。
父め、憎いことをしてくれるじゃないか。
もう20半ばの良い大人。
何もしない少女でもあるまし、上京なんて別に特別なことじゃない。
だけど寂しそうな両親を見て、私は愛されているんだなぁと思った。
そして私はこの人たちを悲しませちゃいけないなと思った。
新幹線はなんだかちょっとだけ悲しくて、ひらりと桜という曲を聞いて少しだけ泣いた。
東京につくとすぐに賃貸の契約。
パソコンの入った馬鹿でかくて超絶重いスーツケースを引きずりながらえっちらおっちら歩いていたが、段差では幾人もの人に助けてもらった。
サラリーマンも、お姉さんも、ありがとう。私もほかのひとを助けられる人になるね。
そんな人の温かさに触れたところで、やっとの思いで新居につく。
体と脳の疲れで全く整理整頓ができず、スーツケースの中身を思いのままにぶちまけてまるで泥棒が入ったような部屋にコーディネイトした。我ながら良いセンスだ。
その後新宿で買い物をしようと思ったものの全然勝手が分からず、池袋で買い物をすることにした。池袋の東口はとにかく地方民に優しい。なんでもそろうんだから。
ドンキでお目当てのウィッグを買ったり化粧品を買ったり。
翌日人に合うから今日中に絶対に風呂に入りたい!と思っていた。
家に帰って休憩した後さらに買い出し。
5箱200円のティッシュを探せず1箱200円の高級ティッシュに甘んじたことはここだけの秘密。
母が持っていけと言った物をことごとく持っていかず、ことごとく後悔した。
クロックスやパジャマやタオル。
すべて現地で買えばいいと思ったけど買えなかった。新宿とは友達になれない。
その代わり母が持たせた歯ブラシセットのせいで歯ブラシセットが今手元に2つあるけどまぁいいか。
上京初日は、両親の愛情を感じながらの上京だった。
改めて、私は声優になるために東京に来たんだと決意した。
絶対に売れたい。いや、形にしたい。
人生で一番向き合うんだ。